とりあえず日記

とりあえず日記

生活の記録

5月1日(水)

(非通知設定から着信)

A:●●(苗字)さんのお電話で間違いないでしょうか。
B:はい。
A:こちら香川県警の者ですが、ある事件の関係で今から身分証を持って香川県警に来ていただくことはできますか?
B:香川……ですか?
A:はいそうです。
B:ええと……すみませんどちらに電話をおかけですか?
A:●● ●●(フルネーム)さんの電話におかけしています。
B:はあ、で、どういう経緯で電話をいただいているか教えていただけますか。
A:とある事件の関係で、お話を伺う必要があるためです。
B:すみません、よくわからないので詳しく教えてもらえますか。
A:わかりました、それでは機密のお話になりますので、第三者のいない状況をつくっていただけますか。
B:はあ……
A:いまお一人でしょうか。
B:はい。
A:わかりました、それでは、これまでに財布やキャッシュカードを紛失されたことはございますか。
B:まあ、はい、ありますが……。
A:いつ頃のことか覚えていらっしゃいますか。
B:えっとすみません、なぜそれを私が答える必要があるのか教えてもらえますか。
A:それはできません、事件に関する重要なことですので。
B:えと、では、こういう連絡が来ていますが、ということを近くの交番にお話しますね。
A:交番では取り扱ってもらえませんよ、「警察署に」行ってください!
B:ええと、では担当者の方の連絡先を伺えますか?こちらから改めて連絡しますので。
A:……今あなたに容疑がかかってるんですよ、あなたの言うことなんて誰も信用するはずないじゃないですか!

(切れる)

という電話が夕方かかってきて、たいへん気分が悪かった。

4月29日(月)〜4月30日(火)

4月29日(月)

昨日の腹痛をひきずっている。てっきり脱水症状からきたものかと思っていたが、あるいはそうではないらしい。食欲もなく、寝ては起き、を繰り返す。せっかく風邪が抜けたと思いきや今度は胃。胃。

妻に勧められた高松美咲『スキップとローファー』を読み始めて読み進める。高校生活、人間関係への執拗なまでのこだわりと張り巡らされたアンテナ、登場人物一人ひとりの焦燥、不安、血気。

ほとんど食事をとらなかった。

4月30日(火)

胃、ほぼ正常に戻る。

朝から雨が降っていたが、植物園を散歩することにすると傘は要ったり要らなかったりするくらいの雨で、上下分かれたタイプのレインコートを着て歩いていると小学生くらいの制服を着た集団がぞろぞろと絵の具セットを持って行進していて図工の時間だ。見たことのない鳥、子供の声、花の形、枝、さえずり、子供はシートを敷いて絵を描く場所を探している。

「9時から雨止むとか全然うそやーん」

「ここめっちゃ濡れてるしい」

施設職員の乗る、施設内を手入れするための車、何という車だろう、エンジン音。椅子と机のある休憩所に腰掛け、屋根から落ちるしずくの順番はどうして決まるのだろう。

いったん帰り、数年ぶりにカラオケ店に向かう。声、声を出さねばならない。しかも大声を。それも考えたことを口にするのではない、声を声として出す。受付のタッチパネルでお一人様、アプリの会員証をかざしてレシートみたいなのがにゅーっと出てそれをもって部屋に行く。廊下から部屋の中はよく見えない。暗い、ので扉を開けて、誰もいないことを確認して少し安心する。合っている。この部屋。

何を歌うか、Spotifyにカラオケで自分が歌うと気持ちがいい歌リストがあるのでそれを見ながら数曲入れて歌い、ドリンクの注文はどうやら部屋のタブレット端末でやるらしく、店員が入ってくるの嫌だなあと思ったがそうではなく、自分で取りに行くスタイルらしい。ホットウーロン茶を注文し、ほどなくすると端末から通知がきて、受け渡し所に行くと壁に穴が空いて台がせり出しており、これは病院で検尿の受け渡しをするあの窓のようで、私のホットウーロン茶は白い小さな紙コップで提供されたのでそれはもう検尿なのだった。

何か最近の曲、と思い柴田聡子『後悔』を入れると「全国採点ランキング」みたいなモードになっており、どうやらあなたはこの曲で全国中何位ですよ!みたいなのを教えてくれるらしい。好きだが歌ったことのない曲で、しかも声が高いし、絶対に一人でなければ恥ずかしくて歌えない、と思いながら「き、もちを、お、さえて、じゅ、んびする」と気持ちよく歌っていると画面の左上に「1位」と出ていて、ああ、なんかこう客を乗せるための演出だねこれはと思いながら「だきしめてく、れ、たらあ~」と歌い終わった。

ごく短いアウトロを経て結果発表画面、結果は「全国1位」と出ている。全国「1人中1位」。全国で、柴田聡子の、『後悔』を、このモードで、歌った人が、1人。わたしだけ。まあそうか、カラオケ向きの曲でもないしな、カラオケ向きの曲?とにかく私はこうして「柴田聡子『後悔』全国1位の男」となった。

午後、妻が借りてきたマンガを返却し、続きの巻があればと探してまわるも貸し出し中で、中古のCDやDVD棚を漁り、いくつかのマンガも借り、門前湯で身体を温め帰宅。

福本伸行『無頼伝 涯』を開き読む。主人公の中学生・涯(がい)は、両親に捨てられ施設で育てられたがその庇護下から抜け出し、ほぼ廃墟となったボロアパートでの暮らしを始める。

「オレに依って立っているっ……!
 自由…そう…これが自由だ…!
 自由は…何でもできる事じゃないっ……!
 自由とは自分に由(よ)ることだ……」


「自分によって生活の全てが決まるから
 現実なのだっ……!」

(『無頼伝 涯』1巻)

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4月24日(水)〜28日(日)

4月24日(水)

胃の調子が悪い。

4月25日(木)

腰、腰まわりの筋肉が張っているような気がする。一日休みにするつもりだったが外に出て、川へ、書店へ、図書館へゆき、外食して帰ってきた。川にはいろんな人が、川沿いの菜の花の様子を写生するおばあちゃんがいる、行って戻るとおばあちゃんの横に若い女性が腰掛けていて、何やら話をしている。何描いてるんですか、いつ始めたんですか、そういうことを話しているのだろう、と勝手に想像して通りすぎて、日陰を求めて移動し、弁当箱に詰めてきた焼きそばとすぐそこの肉屋で買ったコロッケの揚げたてをかじりながらトンビを警戒する。芸人のチャンス大城に似た笑みをたたえながらママチャリに乗る、銀行員ふうのスーツを身につけた男。

4月26日(金)

作業日。の予定だったが喉が痛い。ような気がする。午前中寝て、昼食を食べてまた寝て、起きて、というようなことをして、メルカリでMacbookAirの箱だけが売れて、売値は900円程度、メルカリへの手数料が10%、宅急便60サイズにギリギリ収まらずに送料750円程度、となると結局売り上げは25円くらいとなり、メルカリに手数料を寄付したような結果となった。あれも売ろう、これもひょっとしたら売れるかもしれん物好きに、と波に乗りだしたときに出品した品だ。メルカリハイには気をつけろ。

4月27日(土)

農業塾2回目。の予定だったが欠席することにして電話を入れて、不在で、メールすると丁寧な返事をいただく。野口晴哉『風邪の効用』によれば風邪は治すべきものではなくて経過するもの、ということらしく、足湯をしたりして風邪がうまく経過してくれるのを寝たり起きたりして待った。

4月28日(日)

ようやく風邪が抜けた。岡崎で祭りがあったが病み上がりなので行くのはやめておき、川だ、と思い自転車を走らせて川へゆく。暑い、日陰、日陰、と河原を転がすと、どこもかしこもテントを張った親子連れ、川で遊ぶ子供、ベンチで語り合う若者、日陰と背もたれのあるベンチなどそうそうない、と汗かきしながらようやく見つけたベンチに腰掛けると、目の前の小学生くらいの男子が「岸田総理のキンタマほーいほい」と言いながら、バドミントンのラケットでテントを叩く。中からは「うるさーい!」と親の声。こんどは「ベトナムキンタマほーいほい」と言いながら叩く。

本を読もう、とカバンに手を伸ばした矢先、ママチャリに乗った紳士があらわれ「隣いいですか」という。ベンチは三人掛け、真ん中に私の荷物を挟んで紳士が腰掛け、「これくらいの気温がいいですねえ、これ以上暑くても寒くても」とこぼし、私は「そうですねえ」と正面を向いたまま答え、本に目を落とす。が、目が滑り滑り気づけば焦点は正面、川の面、水しぶきを上げる子供らの様子をぼんやり見ながら「これはもう少し話しを広げたりしたほうがよいのだろうか、いやでも私はいま本が読みたいのだ、気を遣うことはない、ということに気を取られていること自体がストレスだ」とぐるぐるしていると急に腹が痛くなってきた。

通りすがりのレトリバーを散歩するご婦人、がどうやら紳士の知り合いのようで声をかける。「あらまあ、お久しぶりで」「ええ、ほんとですねえ」「最近ここらでお見かけしてなかったから、どうしてらしたのかしらと思って」「ちょっとねえ、病気しましてねえ」「あらまあそれはお気の毒に」「ええ、この歳になるといろいろね。血管の中に細菌が入って云々」というやりとりの間に私の胃腸はどんどん下り調子になり、ついさっきまで「こんなにすぐに席を立っては、話しかけられたことがあからさまに迷惑だったように映るので失礼だろうか」と思っていたその余裕はどこかへ消え去り、本をカバンに詰めて自転車にまたがると紳士は私に向かって「ありがとう」だか「それじゃ」だか、きわめて上品な社交としての別れの挨拶をし、私は焦点の合わない目で紳士を見やり、小腸と大腸のことだけを考えてペダルを踏む。

途中、公共施設やらコンビニもあったのでそこに自転車を停めてトイレを借りる、という手もあったが停める場所は、トイレの場所は、そもそも空いていなければ一環の終わり、という判断を下しとにかく自宅へと急ぐ。もっと、もっと速くと漕ぐと路地とタイヤの摩擦が下腹部に直接殴りかかるためスピードは抑えめで、けれど悠長なことを言っている余裕もなく、冷や汗を垂らしながら通り過ぎた空きテナントの窓ガラスには苦悶の表情をした自分の姿が一瞬映る。

3階。自宅は3階でこのときほどエレベーターがないことを恨んだことはなかった。DIY用の木材を運ぶときも、米の買い出しをしたときも、園芸用の土を何袋も運んだときも、重いけれどもただ登り、まだ荷物が残っていればただ降り、そしてまた登ればよかった。しかし今回は勝手が違う、一段一段が重く、なぜ、なぜエレベーターがうちには、ないのだ、と思いながら踏みしめ、息も絶え絶えになりながら自宅の玄関を開けて目的地にたどりつき事なきを得た。