4月29日(月)
昨日の腹痛をひきずっている。てっきり脱水症状からきたものかと思っていたが、あるいはそうではないらしい。食欲もなく、寝ては起き、を繰り返す。せっかく風邪が抜けたと思いきや今度は胃。胃。
妻に勧められた高松美咲『スキップとローファー』を読み始めて読み進める。高校生活、人間関係への執拗なまでのこだわりと張り巡らされたアンテナ、登場人物一人ひとりの焦燥、不安、血気。
ほとんど食事をとらなかった。
4月30日(火)
胃、ほぼ正常に戻る。
朝から雨が降っていたが、植物園を散歩することにすると傘は要ったり要らなかったりするくらいの雨で、上下分かれたタイプのレインコートを着て歩いていると小学生くらいの制服を着た集団がぞろぞろと絵の具セットを持って行進していて図工の時間だ。見たことのない鳥、子供の声、花の形、枝、さえずり、子供はシートを敷いて絵を描く場所を探している。
「9時から雨止むとか全然うそやーん」
「ここめっちゃ濡れてるしい」
施設職員の乗る、施設内を手入れするための車、何という車だろう、エンジン音。椅子と机のある休憩所に腰掛け、屋根から落ちるしずくの順番はどうして決まるのだろう。
いったん帰り、数年ぶりにカラオケ店に向かう。声、声を出さねばならない。しかも大声を。それも考えたことを口にするのではない、声を声として出す。受付のタッチパネルでお一人様、アプリの会員証をかざしてレシートみたいなのがにゅーっと出てそれをもって部屋に行く。廊下から部屋の中はよく見えない。暗い、ので扉を開けて、誰もいないことを確認して少し安心する。合っている。この部屋。
何を歌うか、Spotifyにカラオケで自分が歌うと気持ちがいい歌リストがあるのでそれを見ながら数曲入れて歌い、ドリンクの注文はどうやら部屋のタブレット端末でやるらしく、店員が入ってくるの嫌だなあと思ったがそうではなく、自分で取りに行くスタイルらしい。ホットウーロン茶を注文し、ほどなくすると端末から通知がきて、受け渡し所に行くと壁に穴が空いて台がせり出しており、これは病院で検尿の受け渡しをするあの窓のようで、私のホットウーロン茶は白い小さな紙コップで提供されたのでそれはもう検尿なのだった。
何か最近の曲、と思い柴田聡子『後悔』を入れると「全国採点ランキング」みたいなモードになっており、どうやらあなたはこの曲で全国中何位ですよ!みたいなのを教えてくれるらしい。好きだが歌ったことのない曲で、しかも声が高いし、絶対に一人でなければ恥ずかしくて歌えない、と思いながら「き、もちを、お、さえて、じゅ、んびする」と気持ちよく歌っていると画面の左上に「1位」と出ていて、ああ、なんかこう客を乗せるための演出だねこれはと思いながら「だきしめてく、れ、たらあ~」と歌い終わった。
ごく短いアウトロを経て結果発表画面、結果は「全国1位」と出ている。全国「1人中1位」。全国で、柴田聡子の、『後悔』を、このモードで、歌った人が、1人。わたしだけ。まあそうか、カラオケ向きの曲でもないしな、カラオケ向きの曲?とにかく私はこうして「柴田聡子『後悔』全国1位の男」となった。
午後、妻が借りてきたマンガを返却し、続きの巻があればと探してまわるも貸し出し中で、中古のCDやDVD棚を漁り、いくつかのマンガも借り、門前湯で身体を温め帰宅。
福本伸行『無頼伝 涯』を開き読む。主人公の中学生・涯(がい)は、両親に捨てられ施設で育てられたがその庇護下から抜け出し、ほぼ廃墟となったボロアパートでの暮らしを始める。
「オレに依って立っているっ……!
自由…そう…これが自由だ…!
自由は…何でもできる事じゃないっ……!
自由とは自分に由(よ)ることだ……」
「自分によって生活の全てが決まるから
現実なのだっ……!」
(『無頼伝 涯』1巻)