3月26日（火） - とりあえず日記

引き続き部屋の片付けを進める、環境を整えなければ何もできない。数日前に京都市から届いていた住民税の通知に関する封筒をなきものにして引き出しに封印していたのだが午前中に意を決して封を切ると中からおそろしい数字が印字された紙が出てきて、これは一体なんなのだ、つらい、減免とかありませんか神様と思いながらチャットGPTに尋ねると「自治体による」としか返ってこず、そりゃそうだと今度はグーグルに尋ねると京都市のサイトが出てきて詳細はお問い合わせくださいとあり、最初からそうすればよかったものを担当部署に電話すると思いのほか職員が丁寧に対応してくれ、いろいろと教えてもらった。
この年齢になっても、年齢は関係ないにしてももう働いて10年以上経つというのに、いったい自分がいつ、いくら、どこに税金を納めているのかに対してあまりに無頓着であったということが今回給与から天引きされなくなったことにより如実に突きつけられ、学んでいる。結果的に減免の対象にはならないようで、加えて気になったことをいくつか質問するとこれについても親切に教えてくれ、いわゆる「お役所仕事」と揶揄されるような、つまり聞かれたことしか答えないような、いや、彼はこちらが聞いたことしか答えなかったのだが、こちらがそういえば、と付随する抽象的な不安や疑問をひきずりだしてこようとしたときの受話器の先の身振り、実際に相手の身体は見えないのだがその息遣いはこちらをシャットアウトするそれとは明らかに異なっており、安心して質問を投げかけることができた。

夜、風呂から上がって少し前に購入して封すら開けていなかった『アルテリ』十一号を開く。石牟礼道子、坂口恭平、渡辺京二と熊本の書き手の名前が並ぶ中で田尻久子のエッセイ『新しい場所』を読み進める。この文章を読んで、いまテレビで放映中のドラマ『不適切にもほどがある！』を惰性で観るのをやめようといま決めた。『あまちゃん』『俺の家の話』などのクドカン作品が好きで見始め、阿部サダヲの演技や毎回の小ネタに笑いながらも特に最初の数話はすっきりしない気持ちになることが多く、とはいえ最近はタイムトラベルものとしては楽しいしな……と思って観ていた。なのでこの作品を愛している人を否定する意図は全くない、あくまで自分はもうええかなと区切りがついたという話だ。

田尻さんは本稿の中で、性差別について、フェミニズムについて、決して理念だけを先行させて喧伝することなく、あくまで自身の経験を引き出すことから始め、他の著作を引きながら、おだやかな調子で、しかし明確に強い信念を持って書き連ねる。

「フェミニズム」という言葉を使うと怖がる学生がいる、と教師をしているお客さんが言っていた。「フェミニズム」がなんであるか知る機会がなかったのだな、とがっかりする。怒っている女の人たち、とでも思っているのだろう。あなたがちが当たり前のように大学で勉強できるのも、選挙権があるのも、避妊を選択する権利があるのも、平等を訴えた人たちがいたからなのに。（『アルテリ十一号　「新しい場所」』p.93）

私たちの社会には性差別に限らずあらゆる不自由や不平等、もっと言えば個別の生きがたさ、それは自分自身が生きがたさと自覚していないものも含めて、それらに絡めとられそうになりながらどうにか日々を生きている。そうした私たちに絡まる蔦は、何十年、何百年というスパンで歴史を生きた先人たちが彼ら彼女ら自身の問題として絡まり、棘に傷つきながら少しずつ、長い時間をかけて刈り取られてきた。その地面を踏んで私たちはいま生きている。

件のドラマはいちエンタメ作品で、政治的な達成意図をもった表現手段でないだろうし、たまにSNSでみられるような特定のイデオロギーや政治的主張を固持するために作品の揚げ足取りをするような身振りに与するつもりはなはい。けれど本作のキャラクターの描き方に、台詞の言葉選びに、脚本の運び方の中に、蔦を刈り取った先人の気配がほとんど漂わない。とすれば、意図的にその気配を拭い去っているか、作者自身がその存在を知覚していないために無きものとされているか、そのどちらかではないか。そしてこのことは作者の意図とは無関係に結果として政治性を帯びる。今作のような題材ならなおさらだ。